『総大将動く』


キョウカイ達が目にしたのは
集落で遊んでいる子供達と
畑仕事をしている人々の姿

煽り
「キョウカイの目に映る
　戦場の実態

　戦火の中に紛れる人々の営みで
　戦が複雑にうねる

　黒羊に広がる異質な光景」

仲間
「…ただの樹海地帯では
　なかったのか、黒羊は…

　中にこんな集落地が
　存在しているとは…」

キョウカイ
「…」




キョウカイ
（黒羊に着いてすぐに見た
　あのかすかな煙は…

　やはり集落の生活の
　火の種だったのか

　…だとしたらここ以外にも
　集落はある…）

仲間
「…ちょっと待て…

　あいつら何でのん気に
　畑仕事なんかやってんだ

　ガキ共も外で遊んでやがるし…

　まさかここで戦争始まるの
　知らねェんじゃ…」

仲間２
「えっ！？」

仲間３
「秦にだって領土内でも
　秦国に属しておらぬような
　辺境の僻地はいつもある

　こんな樹海地に
　戦の情報が伝わってなくても
　不思議じゃない

　…先へ行こう、キョウカイ
　これは奴らの問題だ

　厳しい言い方だが
　今の俺達には関係ない」


キョウカイが集落にいる
小さい姉妹を見つめる




仲間３
「隊長？」

キョウカイ
（関係ないわけがないだろ
　この戦いはやはり
　複雑なものになるぞ信…）

キョウカイが馬で崖を下り
集落へ行こうとする

キョウカイ
「黄丙は信の本隊に
　集落の存在を知らせろ
　他は周囲を警戒」

仲間達
「！？えっ！？」

キョウカイ
「私は連中に警告してくる」

仲間３
「やめろ、キョウカイ！！
　連中にとっては俺達は
　仮にも侵略者だぞ！！」

仲間
「隊長っ！！」

キョウカイ
「一言伝えてすぐに戻る」


ナレーション
「キョウカイ達が集落を
　発見したのはちょうど

　飛信隊が奪われたと思った
　丘に登った頃である




　つまり黒羊の【動き】は
　まず戦場の右側で起こった

　そして右のバタつきから程なくして
　こちら側の戦場も動き出す」


【慶舎サイド】

ガクエイ
「紀彗副将様が博打に勝ち
　副官２人のご活躍で事が
　楽に進みそうで感謝」




金毛
「調子がいいぞ、ガクエイ」

ガクエイ
「金毛の背丈の低さでも
　視界がよいのにも感謝」

金毛
「ガクエイ」

慶舎
「武功をあげたな、紀彗」

紀彗
「馬呈と劉冬の手柄です」

慶舎
「見ろ、中央の丘

　此度の戦の勝敗を左右する
　黒羊最大の丘だ




　左に憂いはない、
　このまま右だけ警戒して前身

　我々が先に占拠するぞ」





【尾平サイド】

尾平達とカンキ軍の巴印達は
汗だくになりながら樹海を進行する




尾平
「か…桓騎軍の行軍って
　いつもこんななンスか？
　巴印さん」

巴印
「あー？」

尾平
「いや…飛信隊も時々は
　これよりもっと早いンスけど

　桓騎軍もこんなに走るんだって
　意外で…な…なァ？」

飛信隊
「オ…オオ…」

巴印
「あー、いや、いつも
　こんなに飛ばすわけじゃねェ、
　今回は特別だ」




尾平
「特別？」

巴印
「ま、詳しくは知んねェけど
　まず雷土軍が先行してつっ走って
　中央丘より奥に前線作るんだと」

尾柄達は自軍の役割と
所属をしたなかった

尾平
「…─え、つまり俺ら
　雷土軍なんスか？」

巴印
「あ？そうだよ
　雷土軍の二列目だよ」

尾平
「あの左目周りにスミ入れてる
　おっかねぇ人か…」

巴印
「雷土さんはおっかねぇし
　メチャ強ェよ




　あの人の一家を取り込むのは
　お頭も相当苦労したらしいからな」

尾平
「…一家？…取り込む？」

巴印
「…あんたらそっから
　知らねーのかよ

　今は桓騎軍として一つに
　まとまってるけど

　元々はそれぞれ別の
　野盗団だったんだよ

　それをお頭が一つ一つ
　つぶしたり説得しながら

　傘下に取り込んで
　こんだけでかくなったんだよ」




尾平
「…すげェ」

飛信隊
「じ、じゃあ中でも
　一番やばい雷土さんの隊に
　俺らいるってことスか」

巴印
「ん…ああ、まァな
　だが本当にやばい集団ってのは
　実は他に二ついる」

カンキ軍
「クク、余計なこと
　教えんなよ巴印」


尾平
「本当にやばい集団！？」

巴印
「ああ、今俺達の左の茂み
　一つ隣を並走している一団

　ゼノウ一家

　北で猛威をふるっていた
　夜盗団なんだが

　本当はただの戦闘民族
　なんじゃねェのかってくらい
　とにかく戦狂いの連中だ

　桓騎軍の中でも間違いなく
　最強の武力を持っていて

　死地に喜々として
　突っ込んでいく

　特に一家の頭のゼノウ
　ねじ切る程の力を持つ大男だ




　一度、蒙武を見た事があるが

　蒙武より、ゼノウの方が
　一回りでかい」

尾平
「えっ！」

巴印
「力頼みの場面で必ず
　最大の働きをするこのゼノウ一家だが
　一つ大きな問題がある」

尾平
「問題？」

巴印
「連中はとにかく獣みてェに
　獰猛で常に殺気立っている

　気にくわなきゃ味方だろうと
　バンバン殺しちまう」

奇声をあげながら
進軍しているゼノウ軍

その中の１人はネズミを捕まえて
生のまま頭からかぶりついている




巴印
「ゼノウにはお頭だって
　めったに近づかねェ」

尾平
「えっ！？」

巴印
「だから間違っても
　お前らの左の列に行くなよ

　よそ者のお前らなんて
　目が合っただけで
　虫のように殺されるぞ」

尾平
「お、お前らはぐれても
　絶対左にだけは行っちゃダメだ！！」

飛信隊
「オ、オウ！！


尾平
「…あの…ちなみにもう一つ…
　やばい一家というのは…」

巴印
「…もう一つか…もう一つは
　今うちらの後ろの列にいる…

　灰面集団の砂鬼（さき）一家だ




　こいつらに関しちゃ
　この桓騎軍の中で一番
　残虐な集団と言えば十分だろ

　砂鬼一家は人間の尻から口まで
　木をぶっさしちゃ

　喜んでいるイッてる連中

　中華一の不運は砂鬼に
　とっ捕まる事だって皆が言う

　つーわけで後ろからもやべぇのが
　走ってきてるっつーことだ」

尾平
「おっ、お前らしっかり走れ、
　へばって足止めんなよ！」

慶
「何か吐き気してきた」

尾平
「慶！！」

尾平とヒソヒソと話す慶

慶
「一戦終わったら本当に俺ら
　飛信隊に戻してもらえるんだよな？」

尾平
「…のはずだ…

　酔ってイマイチ覚えてねぇが
　たしかそう言われたはずだ…

　と、とにかく今は大人しく
　真面目に行軍するんだ

　左と後ろに気をつけながら」

慶
「オ、オウ」

飛信隊
「ん？」


その時、突然背後から
現れた人物にビビル飛信隊

飛信隊
「ひぃ！！うわっ！！」

だが、それはカンキだった
（そして側近のリン玉）




尾平
「あっ！！かっ、桓騎将軍！！」

巴印
「お頭！？…なっ何で
　こんな所にお頭がっ！！」

カンキ
「お前ら雷土の二列目か？」

巴印
「はっ、はい！」

カンキ
「もう一つ左だな
　リン玉（りんぎょく）」

リン玉
「っスね」




巴印
「何かあったんスか
　わざわざご自分でこんな所に…」

カンキ
「いや、…ちょっとな」

リン玉
「右の下僕が早くも
　しくじりやがった」

尾平
（え？）

カンキ
「行くぞ」

リン玉
「っス」

尾平
「…え？」

そのまま去って行くカンキ達


カンキ達が向かったのは
ゼノウ一家の方向だった

リン玉
「だっ、大丈夫スかお頭
　このまま突っ込んで」

カンキ
「大丈夫だ」

ゼノウ一家モブ達
「何じゃてめェら！！
　ここを誰の隊だとっ…！！」




カンキ
「ジャマだ」

ゼノウ一家のモブを斬るカンキ

ゼノウ一家モブ達
「ぎゃ！！」

リン玉
「なー！！斬っちゃダメでしょ！！
　お頭ー！！」

ゼノウ一家モブ達
「コラァ！！ブオオオ！！」

キレるゼノウ一家のモブ達が
カンキ達に襲いかかる

カンキ軍
「やめろバカ！！味方だっ！！」

その騒ぎに気付くゼノウ

ゼノウ
「…ん？」

カンキがゼノウの横に現れる

カンキ
「相変わらずだなお前の所は
　さっそく仕事だゼノウ
　お前の力で盤上を叩き壊してこい」




ギョロっとカンキをを見るゼノウ

ゼノウ
「…カンキ…」





煽り
「信軍劣勢の気運の中、
　桓騎の策略が怪しく煌めき出す

　ゼノウの武力が戦を掻き乱す！？
　次号、両軍、激しく激突する…！？」